第8話 トポロジー最適化と形状最適化との連携の歴史
交流会の御礼
2024年9月20日(金)『くいんと交流会2024』を開催しました。多くのお客様にご参加いただき、大盛況のうちに開催することができました。 社員一同、心より御礼申し上げます。
数年ぶりのオフライン開催を含む初のハイブリッド開催でしたが、いかがだったでしょうか。 この交流会が少しでもお客様の役に立てたのなら幸いです。
トポロジー最適化から形状最適化
早速ですが本題です。今回のテーマは個人的に紹介したかったトポロジー最適化と形状最適化との連携の歴史についてです。
構造最適化の機能のうち、トポロジー最適化は特に設計の初期段階に、形状最適化は特に詳細設計に有用な機能であり、これらの最適化機能は組み合わせて使うことで両方の良いところを活かすことができます。 詳しい説明などは、本コラムの『第1話 OPTISHAPE-TS の紹介』を是非ご覧下さい。 トポロジー最適化と形状最適化は組み合わせて使うと良い という点だけでも覚えていただけると嬉しいです。
弊社ではこの考えをベースに、OPTISHAPE-TS 発売当初からトポロジー最適化と形状最適化の両方の機能を搭載しています。 余談ではありますが、OPTISHAPE-TS の “TS” は Total Solution とTopology & Shapeとのダブルネーミングとなっています。 私が入社したときには Total Solution の方が正式であると当時のプロダクトリーダーに教えてもらいましたが、社内的にも社外的にもTopology & Shapeの方が認知度は高いようです。
トポロジー最適化の黎明期
かつて、OPTISHAPE-TS がまだ OPTISHAPE だった頃のトポロジー最適化は、レイアウトの参考にするのが常であり、その形状をそのまま使うということは困難でした。 計算機の性能が低く、メッシュも今と比べると荒かったこと、弊社の昔のトポロジー最適化は均質化法でありポスト処理も要素を削って結果形状を表現していたこと、ノウハウとしてボクセルメッシュがよく使われていたことなどが理由でしょうか。 そもそも最初の OPTISHAPE には形状最適化は搭載されていませんでした。
当時のトポロジー最適化の結果は、弊社事例紹介の「ユーザー事例1 大型トラックリアエアサスペンションの構造最適化」にて垣間見ることができます。 今よりも荒いメッシュが使われていること、等値面処理ではなく要素ごとに削ったポスト処理をしていることなどが分かります。
トポロジー最適化の結果形状の活用
それから時は進み、私が入社した頃にはトポロジー最適化の結果形状をCADに戻したいという要望がありました。 これにはCADデータ自体を求める要望もありましたし、トポロジー最適化の結果形状を形状最適化で利用するためという理由も強くありました。 入社当時の私も他社ソフトウェアを実際に使いながら、このトポロジー最適化の結果をいかに簡単に形状最適化にもっていくかという課題に苦心していました。今思うと懐かしいですね。
詳細は「第6話 幻のソフト ARE」にありますので、未読の方は是非ともご一読ください。
現在の S-Generator を開発することで、トポロジー最適化の結果形状から比較的手軽にCADモデルを作成できるようになりました。
これで簡単にトポロジー最適化の結果を形状最適化に持っていくことができます。
めでたし、めでたし、と言いたいところですが、ここでまだ完全に満足はできません。
S-Generator だけでは満足できない理由
今回の主題は「形状最適化の結果をいかにCADにもっていくか」であり、S-Generator の開発目的は「トポロジー最適化の結果からCADデータを作成する」でした。 S-Generator は1つの有効な手段ではありますが、主題の目的を完全に満足するものではありません。実際いくつかの問題がありました。
弊社製品で完結できない
弊社はサポート業務も手がけていますので、トポロジー最適化から形状最適化をお客様に提案する際、なるべくならば弊社のソフトウェアで完結したいという思いがあります。 一方で S-Generator はCADを作る、もしくはSTLの編集をするだけであり、メッシュを切るという点に関しては、どうしても他社ソフトウェアに依存することになってしまいます。
工数がかかる
元々の大変さを知っている方からすると、トポロジー最適化の結果形状から半日程度でCADデータを作成することができるというのは十分に素晴らしい成果です。 一方で何も知らない人から見ると、等値面という形状が見えているにもかかわらず、そこから解析を流すためのデータを作るためだけに人が半日以上作業するというのはハードルが高いと言わざるを得ません。
覚えることが増える
OPTISHAPE-TS の GUI である TS Studio は前身が Viewer であり、一方の S-Generator はモデルの編集を主目的としたソフトウェアです。 一時は同じ製品群にあったソフトウェアと言えど、目的が違えば設計思想が異なり、設計思想が異なれば操作方法も異なります。 特に S-Generator はソフトウェアの特性上、CADなどとも違った考え方が必要なソフトウェアであり、操作が簡単であるとは言えども どうしても操作を覚える必要はあります。
トポロジー最適化から形状最適化(2016)
こうした事情もあり、トポロジー最適化から形状最適化のための専用機能の開発が細々と開始されました。
既存機能を流用して試作した機能が最初のバージョンです。恐らく2014年か2015年頃、今から10年ほど前だったかと思います。 TS Studio では等値面の断面を処理する際に内部的に各要素をテトラ要素に分解しています。 これを流用したものがこのバージョンであり、結果は下の図のようなものになりました。
当時は密度のスムージング機能がなかったので、結果形状の表面がガタガタになってしまいました。 当時の評価は「静弾性解析の変位の確認程度ならば使える」というものであり、機能として世に出せるものではありません。 ということで、密度のスムージング機能を開発してから再挑戦という結論に達しました。
それから数年後。密度のスムージング機能を開発し、再挑戦をした結果が上図です。
本内容はくいんと交流会2016 にて発表したものです。
表面はだいぶ滑らかになりましたが、S-Generator を使った方法と比べると、結果はいまいちです。
これは、S-Generator は等値面表面の各点を移動してスムージングを行っているのに対し、TS Studio は密度をスムージングしていることが理由であり、手法上の限界になります。
またこの手法では、モデル内部は元の要素をそのまま使うのに対し、モデルの表面に元形状の要素を複数個に無理矢理分割したテトラメッシュが生成されてしまいます。 これらの精度の極端に悪い要素が多いことが災いしてか、形状最適化を実施しても思うように形が変わらないということも明らかになりました。
他にも細かな問題があり、最終的には検討手法の延長では改善の見込みがないという結論に至りました。 これらの結果を踏まえ、テトラメッシャーの導入を前提とした機能開発が始まりました。
トポロジー最適化から形状最適化(2022)
テトラメッシャーの調査、テスト的な実装と機能テスト、詳細実装など細々と開発を続け、最終的に皆様に利用いただけるものが完成したのはバージョン2022。 前回の内容が2016だったので、随分と間が空いてしまいました。
実現した機能は、トポロジー最適化の結果から等値面の表面を抽出し、それをフリップ機能やスムージング機能などで整えて、内部をテトラで分割。 出来たメッシュに対して材料や境界条件をコピーするという処理をワンボタンで実現するというものになります。 工数も手間もかからず、弊社製品の中で完結する目標通りの機能が完成いたしました。
S-Generator との使い分け
S-Generator では不十分だったから専用機能を開発した、ということは専用機能があれば S-Generator は不要でしょうか?実はそうとは言い切れません。
まず、開発の主目的であった「最適化の結果形状をCADデータにする」という目的のためには、S-Generator は不可欠です。 この最適化にはトポロジー最適化だけでなく、形状最適化やビード最適化も含まれます。 また、単に表面形状であるSTLの編集ツールとしてだけ見ても非常に優秀なソフトウェアであります。
また、トポロジー最適化から形状最適化という観点で見ても、S-Generator は重要なソフトウェアです。 自動処理は非常に簡単な一方、人の手による介入ができません。 より滑らかなスムージング、繋がっていない箇所の修正、不要な部位の削除などの形状の修正などもそうですし、自動処理ではメッシュの細かさを制御することができないというのも問題となる場合があります。 綺麗なメッシュを形状最適化に持っていくという観点で言えば S-Generator の方が優位です。
ワンボタンでトポロジー最適化の結果から解析用のモデルを簡単に作れる機能と、人の手を介して最適化の結果形状を編集しCADを作る S-Generator。 互いに一長一短ありますので、両者は用途によって使い分けていただくのが良いというのが現時点での結論になります。
ここだけの話、社内では S-Generator を使う方が圧倒的に多いです。 ワンボタンの方が圧倒的に便利そうにも思えますが、弊社は S-Generator を何本でも使える環境であり、OPTISHAPE-TS を使う人間はもれなく S-Generator の操作にも慣れていて心理的なハードルが低いこと、S-Generator を使った方が綺麗に仕上がり手戻りが少ないことなどが理由です。
トポロジー最適化から形状最適化のこれから
これまでの経緯の紹介をいたしましたが、トポロジー最適化から形状最適化という点ではまだ改良の余地があると私は思っています。 折角なので今後について少しお話をさせて下さい。
OPTISHAPE-TSとS-Generatorとの連携強化
将来的に S-Generator を前提とした OPTISHAPE-TS の機能強化をしていきたいと考えています。 具体的なアイデアもいくつかありますが、ある程度検証が進んだら皆様に発表したいと考えています。 とは言え、なにもないというのも寂しいので、次期バージョンの新機能のうち S-Generator を使ったトポロジー最適化から形状最適化の処理に役立つ機能を紹介したいと思います。
TS Studioの次期バージョンには、「面荷重を節点に展開する機能」と「節点の境界条件のコピー」が追加されます。 S-Generator の使い方次第、モデル次第ではありますが、境界条件の張り直しが楽になります。
同じく「モデルの鏡面コピー」機能も場合によっては便利な機能です。 トポロジー最適化では密度変動制限という機能で、形状最適化では形状拘束用MPC作成機能で、左右対称などの対称条件を設定することが可能です。 その際、形状最適化ではメッシュが完全に左右対称である必要があるため、メッシュの作り方に工夫が必要です。 一番良いのは半分の形状のCADからメッシュを作成し、それをそのまま鏡面対称コピーすることですが、従来はプリプロセッサ側に機能がないため実現できないということがありました。 次期バージョンからは、これが OPTISHAPE-TS の機能で実現可能となります。
次期バージョンの「等値面の反転」機能も、場合によっては便利な機能です。この機能はその名の通り等値面の反転、すなわち密度の薄い部分の等値面形状を作成する機能となります。 この部分を S-Generator でCADデータにして、トポロジー最適化の元になったCADデータからCAD側の機能で減算することで、元のCADデータを最大限に活用して結果形状のCADを作るという使い方ができます。 例えば、トポロジー最適化の結果が梁構造になると使いにくいなど、万能な機能という訳ではないですが、ご活用いただける方は一定数いるのではないかと考えています。
自動化システム
トポロジー最適化から形状最適化をワンクリックで実行できるのならば、それらを組み込んだ自動化したシステムなども検討できると考えています。 例えば、密度や重みを複数振ったトポロジー最適化を一気に流して、それぞれの結果から応力を考慮した形状最適化を実行するなどです。 ソルバーは元々パラメータとモデルを入力することで結果を得るため、人の手を介する必要はなく、TS Studio での処理の自動化は昨年の交流会で紹介済で、単体要素としてはそれなりに揃っています。 あとはシステムとしてどう設計するかという点が難しいところではありますので、細々と検討を続けていき、何か成果がでたときには交流会などの機会に発表できればと考えています。
最後に
本日はトポロジー最適化と形状最適化との連携の歴史と題して紹介をさせていただきました。 OPTISHAPE-TS はトポロジー最適化と形状最適化の2つの機能を中心に発展してきましたが、その組み合わせにはさらなる発展の余地があると思っています。
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2024年10月8日
株式会社くいんと 技術開発部
OPTISHAPE-TS プロダクトリーダー
島田 誠
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