OPTISHAPE-TS発売20周年記念コラム:OPTISHAPE-TSの歩みと開発秘話

第10話 将来の話

はじめに

年初に開始した本コラムも無事に1年を迎えました。本日は最終話として OPTISHAPE-TS の将来について大まかに話をしたいと思います。 過去にくいんと交流会などで発表した内容も多いので、 目新しい話がないように感じる方がいましたら申し訳ございません。

また、OPTISHAPE-TS 開発チームでは来年リリース予定の OPTISHAPE-TS 2025 に向けた作業を行っております。 本日の内容はこれより後のバージョンの話になります。

※ ユーザーの方々については、くいんと交流会2024でバージョン2025の一部をご紹介した弊社講演動画を ユーザーページに掲載していますので、是非ご覧ください。(※ログインIDとパスワードが必要)

ソルバー

まずはメインのソルバーから説明をしていきます。

大規模モデルにおける計算速度の改善

特に大規模なモデルにおける計算速度というのが現在の課題になっていて、そこに対してクラスター環境による大規模並列計算への対応など、何かしらの改善を図れないかと検討を進めています。 具体的に進捗をお知らせできる時期が来ましたら、くいんと交流会などを通じてお知らせしたいと思います。

接触の対応強化

線形弾性解析における接触解析への対応を強化しています。こちらも発表できる段階になりましたら、くいんと交流会などを通じてお知らせしたいと考えています。

トポロジー最適化の大規模改修

まだ検討段階ではありますが、手法の見直しを主目的としたトポロジー最適化の大規模改修を考えています。 こちらも発表できる段階になりましたら、くいんと交流会などを通じてお知らせしたいと考えています。

自動化やシステムへの組み込みやすさ向上に向けた取り組み

OPTISHAPE-TS ソルバーをシステムの一部として何かに組み込むときに便利な改修についても検討をしています。

例えば有限要素モデルと最適化条件の分離。現在の OPTISHAPE-TS では最適化のために有限要素モデルを編集する必要があります。 領域を指定するためのプロパティー、方向指定のための座標系、変位の方向と位置を指定するための荷重などなど。 普通に使う分にはそこまで不便を感じることはないのですが、システムへの組み込みや自動化という観点から考えると、有限要素モデルはなるべく純粋に保ったまま外部のファイルで設定を指定するほうが何かと都合が良くなります。

他にも、最適化パラメータや解析結果をオープンなフォーマットに対応させることで弊社以外の方がプログラムを作る際の手間を大幅に軽減するなど、そのようなこと視野に入れています。

いずれも長期的な取り組みになりますので、需要と優先度を考えつつ取り組んでいきたいと思います。

そのほか

上記以外にもお客様から要望を受けた機能や評価関数、解析などは色々とあり、開発リソースの多くをそれらにも割り当てております。 こちらについても出せるタイミングになりましたら、随時お知らせしていく予定です。

TS Studio

次に TS Studio。

1つのモデルに対して複数の最適化条件を扱う機能

1つのモデルに対して1つの最適化結果を得るという点では、今でも十分に機能が揃っています。 一方で、1つのモデルに対して色々と条件を変えて最適化を行い、その結果を比較することを考えると、もっとプログラム側で支援できることがあるのではと考えています。

例えば、評価関数の重みを変えて複数の最適化パラメータを一括生成する機能、複数の最適化結果を表で比較する機能、最適化結果の形状同士を比較する機能などなど。 1つの機能というよりも、複数の機能群というイメージになります。

自動化

TS Studio の自動化を、いずれは一般化したいと考えています。例えば、モデルを読み込み最適化結果の等値面のSTLを取得する、画像を取得する、そうした処理の自動化の一般化です。 既に一部の内部機能や受託開発では利用していますが、開発や維持にかかる工数に対して需要があまり見通せていないため、今は必要な部分だけ開発を行い、一部のお客様に提供という形をとっています。

最適化結果を考察するための機能

最適化で結果が出たときに、どうしてそういう結果になったのか知りたいという要望が以前からあります。 これは昔からお客様からの要望が多い一方で、これをかなえる夢のような機能は未だに実現できていません。 1つの機能というよりも、複数の機能の組み合わせだったり、既存機能も含めた手順だったり、そうした形で実現するしかないのかなと漠然と考えています。

結果の考察に役立つ機能に関しては、何かしら良いアイデアを思い付き次第、検証を行って実装していきたいと考えています。

そのほか

新しいプリプロセッサ

OPTISHAPE-TS を新しく導入しようとした際、よく障壁となるのが CAD からメッシュを切ることができないという点です。
現在この点に対して新しいプリプロセッサの作成を検討中です。

この画像は開発中のものです。今は本当に必要最低限の基本機能を実装している段階なので、皆様にご利用いただくのは先になりますが、しかるべき時が来たらご利用いただけるようにしたいと考えています。

ドキュメント

現在マニュアルはPDF形式で提供していますが、将来はHTML形式にする予定です。

上記画像は、来年リリース予定の弊社ライセンスシステム次期バージョンのマニュアルです。 OPTISHAPE-TS もこれと同じようにHTML形式に変更し、すべてのドキュメントをひとつに統合することを考えています。

残念ながら来年中にリリース予定のバージョン 2025 では現状の PDF を継続することが決まっていますが、なるべく早く新しいドキュメントシステムへ移行したいと考えています。

夢のソフト

現実的な話ばかりしても読みものとしては面白くないので、最後に弊社のモットーでもある「夢のあるCAEを日本から」になぞらえて、自分が個人的に作ってみたい夢の構造最適化ソフトウェアの話をして終わりにしたいと思います。

結果の編集を前提とした対話型の構造最適化ソフトウェア

構造最適化ソフトウェアの主な目的は形状を出すことにあります。現在は形状を出すために最適化の条件を変えるというのが前提になっていますが、最適化の結果を直接編集しても良いのではと考えています。

例えば、トポロジー最適化の密度を手で修正して補強部材を追加したり、逆に補強部材を消したり。 もしくは複数の条件の最適化結果形状を見て、右側は条件Aの結果、左側はBの結果を使うなんていうのも 面白いかもしれません。形状最適化ならば、手でモデルの表面を膨らませたり、凹ませたりでしょうか。

そうして編集した形状は制約を満たしていない、目指すべき性能に達していないという可能性が大いにあります。 そうしたら、既に変えたくない部分はそのままにし、変えても良い部分だけを指定して改めて条件を変更して最適化を実施。 このときには感度が指標として有効に機能するかも知れません。

そんなかたちで設計者と対話をしながら形状を作り上げる、そんなソフトウェアを作りたいと考えています。 現在の OPTISHAPE-TS との大きな違いは、結果に対する編集と、対話を前提としたソフトウェアの設計思想でしょうか。

VR, MRを使用した形状の編集

対話型の構造最適化ソフトウェアを作るとして、このときに問題になるのが形状の編集という点になります。 トポロジー最適化の結果を人間が直接編集するとして、例えば3次元空間に少し曲がった部材を配置するだけでも、思いどおりにというとなかなか大変です。 これに対して、VRやMRが使えるのではと考えています。

パラメータで決まるようなしっかりとした線や面が欲しいのならば CAD という話になりますが、ラフな補強形状を簡単にという話であればVRやMRで十分です。 ペイントソフトで絵を描く3次元版のようなイメージで、現時点の機器で十分に実現可能なポテンシャルはあると考えています。

ゲーム

人がトポロジー最適化の結果のような形状を簡単に作ることができるならば、人の考えた形状と最適化ソフトの結果を比較して点数を出してくれるゲームのようなソフトも面白いと思っています。 これは OPTISHAPE-TS というよりは OPTISHAPE-ES の先にある未来かも知れません。

今でもワークショップのような形式で似たような取り組みはありますし、2次元の物理演算という話ならば似たようなゲームは既に存在します。 ですが、3次元で人間最適化の構造をリアルタイムに採点という話になると、世の中にまだ存在しないかと思います。

究極の構造最適化ソフトウェアというと人間不要の全自動設計というイメージをもつ方も多いかも知れませんが、私はそうは思っていません。 むしろ、人が毎日使うようなソフトウェアこそが、目指すべき未来ではないかと考えています。

最後に

一年間のご愛読ありがとうございました。弊社もお陰様で来年には40周年を迎えます。 OPTISHAPE-TS はさらに次の 20 年に向けて、これからも開発を継続いたします。


2024年12月25日
株式会社くいんと 技術開発部
OPTISHAPE-TS プロダクトリーダー
島田 誠


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