第4話 OPTISHAPE-TS 2014
はじめに
OPTISHAPE-TS 20 周年コラムを引き続きご覧頂きありがとうございます。 前回までは最初の OPTISHAPE-TS であるバージョン 2004 を見てきましたので、今回は 10 年後にあたるバージョン2014 について見ていこうと思います。
当時のハードウェア環境を振り返って
第 2 回目と同様に、今回もソフトウェアの話をする前に当時のデスクトップ PC のハードウェア環境について簡単に触れてみましょう。
10 年前の当時は最新の OS が Windows 8.1 でした。このさらに 10 年前が XP 全盛期だったので、Vista、7、8、8.1 と環境は大きく変化しました。ただし解析業務の範囲内では Windows 7 が引き続き全盛期であり、Windows 8、8.1 はほとんど需要がなかったように記憶しています。そのため OPTISHAPE-TS でも動作確認だけは実施した上で Windows 8、8.1 を正式サポート OS とはしませんでした。
当時のCPU としては Core-i の第4世代あたり。この 10 年前が Pentium 4 でしたので、この間に Core 2 世代が登場して退場しています。これらの CPU のお陰でデスクトップでも一気に並列処理(SMP)が当たり前になりました。SSD も普及してきた時代であり、システムだけは SSD、データは HDD という構成が主流だった時代です。近頃はデスクトップ PC であっても HDD を搭載しないマシンも増えてきましたが、解析業務という話で言えば大容量の HDD にシステムの M.2 や SSD と、考え方に関しては昔と同じかも知れません。メモリーは 16 GB から 32 GB あたりが主力でワークステーションでなくても最大で 64 GBを積むことが可能。ソフトウェアを作る側からするとメモリーに関しては随分と楽になった記憶があります。
OPTISHAPE-TS 2014 と TS Surface Genarator 2013
折角なので、今回も当時の OS である Windows 7 に OPTISHAPE-TS 2014をインストールしてみました。この頃には TS ナビゲータがあるのでメニューはシンプルな構成になっています。この TS ナビゲータ はスタートメニューをすっきりさせるために片手間で開発したという経緯があり、その役割を存分に果たしていることが分かります。このソフトを基点に OPTISHAPE-TS の様々な操作が出来るため、サポートの際には説明が随分と楽になったようにも記憶しています。
OPTISHAPE-TS の下には TS Surface Generator 2013 という項目があります。こちらについて少しだけ紹介しましょう。
TS Surface Generator
現在 OPTISHAPE-TS をご利用の方の中にも、聞いたことのない方が居るかも知れないこのソフトウェア。こちらは現在の S-Generator の前身として登場したソフトウェアになります。
見た目が S-Generator とまったく同じなのでややこしいですが、名前は TS Surface Generator になっています。
OPTISHAPE-TS には昔から結果形状を CAD にしたいという需要が強くありました。STL ファイルでは設計者が形状を確認出来ない、最適化形状からメッシュを切り直して再解析したいなどがその理由です。そのため、弊社でも他社のソフトウェアを評価して交流会で発表したりと色々な取り組みを行いました。その後、紆余曲折の結果自社開発をすることとなり、誕生したのがこの TS Surface Generator。
最初は OPTISHAPE-TS のオプション製品という位置づけでしたが、その後 OPTISHAPE-TS を持っていないお客様にも使って頂けるようにと名前を改めて独立した製品としました。それが今日の S-Generator になります。現在でもライセンス内のフィーチャー名が OPT_SG とOPTISHAPE-TS を意味する OPT が付いていたり、ドキュメントの見た目が一緒だったり、TS ナビゲーター から起動が可能だったりと、S-Generator になった現在も OPTISHAPE-TS のオプションだった頃の名残が随所に見られます。
この S-Generator も TS Surface Generator 時代と合わせると昨年めでたく 10 周年を迎えています。この TS Surface Generator / S-Generator は OPTISHAPE-TS と切っても切れない関係にありますので、本コラムで改めて紹介できればと考えています。
GUI
では、次に各 GUI ソフトウェアについて見ていきましょう。
TS ナビゲータ
TS ナビゲーターはこの 10 年の間に登場したソフトになります。最新版と比べるとパラメータ設定ウィザードが最初のページに表示されている、表示されている画像が異なるなどの細かい違いはありますが大まかには今も昔もあまり変わりありません。
この頃には結果の確認には OPTISHAPE-TS Viewer (現在の TS Studio) を利用して頂いていましたが、互換性の観点から一応 GIWorks が残っていました。
パラメータ設定ウィザード
こちらのツールは昔からのユーザーの方には懐かしさを覚える方も居るのではないでしょうか。私にとっては初めて担当したツールということもあり、非常に懐かしく、また思い出深いソフトでもあります。バージョン 2004 の頃のパラメータ作成ツールに見た目は近いですが、中身は別物であり、パラメータ自体が多くなった分だけ色々と出来ることが増えています。
この頃には OPTISHAPE-TS Viewerでモデルを確認しながら最適化パラメータ作成が出来るようになり、徐々に使われなくなっていました。今は完全に提供を終了していますが、このツールの使い勝手は TS Studio のパラメータ作成機能の中でひっそりと生きています。
OPTISHAPE-TS Viewer
現在の TS Studio の前身にあたるソフトで、当時は OPTISHAPE-TS Viewer という名前でした。こちらも TS Surface Generator のときと同様に TS Studio と見た目が非常に似ていますが名前は異なります。
現在の最新版と比べると機能やアイコン類が少ないこともあってか、寂しい印象を受けます。実際すべて挙げるとキリがないくらい機能に差はあります。また、当時は形状最適化の結果を表示するのに「形状変動量の変形図を実寸倍で表示する」という操作をしているなど、使い勝手も随分と異なっていました。
表に見えない大きな違いとして、この頃から OPTISHAPE-TS 1 ライセンスにつき Viewer を 2 本使えるようになりました。 当時は GIWorks と Viewer を同時に使えるように、今はプリとポストでそれぞれ使えるように、というのが公式な理由です。 実際に間違ってもいないのですが、より多くの人に OPTISHAPE-TS に触れてもらいたいという開発側からの要望により、ライセンスを増やしてもらったという背景があったりします。
*小話*
この頃の Viewer は解析結果の表示はもちろんのこと、最適化パラメータの作成や編集、バルクデータの編集機能なども利用可能でした。それ故に「Viewer という名前のソフトで最適化パラメータを作成やモデルの編集というのは説明に困る」という指摘を社内外から受けることとなり、後のバージョンで現在の TS Studio という名称に変更を行ったという経緯があります。
この名前は深い意味をもたない味気ない名前という選考基準で名前が選ばれました。 製品内の 1 ソフトウェアであること、他のソフトウェアが TS グラフ、TS ナビゲータ、TS スケジューラと味気ない名前だったことがその理由です。 当時の資料を紐解いてみると、TS Studio 以外に Craft Center、Craft Room、Workshop、GIWorks 2 なんて候補も出ていたようです。
ソルバー
次にソルバーについて見ていきましょう。まずは OPTISHAPE-TS の最適化機能から。
2014
- 位相最適化
- 型抜き位相最適化
- ノンパラメトリック形状最適化
- レベルセット法形状最適化
- 逐次外表面位相最適化
現在(2022r1)
- トポロジー最適化
- ノンパラメトリック形状最適化
- ビード最適化
この説明も数度目になりますが、位相最適化とトポロジー最適化は同じ機能を指します。当時の機能を呼称するときは位相最適化、現在の機能を説明するときにはトポロジー最適化と呼び分けていますがまったく同じものです。
逐次外表面位相最適化に関しては前回の記事をぜひご覧ください。一応機能としては残っていましたが、この頃には後継の型抜き位相最適化もあったため、利用される頻度は低かったように思います。
型抜き位相最適化は型抜きを考慮可能な位相最適化で、流れているソルバーは位相最適化と同じものになります。ただし収束性の観点などから、体積や質量を制約とする問題に限定するなどいくつかトポロジー最適化から機能を制限しています。現在は大幅な改良の結果、通常のトポロジー最適化の中に型抜き機能が入ることとなり、単体の機能としての型抜き位相最適化/型抜きトポロジー最適化は提供を終了しています。
レベルセット法形状最適化は現在の HiramekiWorks や VOXELCON に搭載されているレベルセット法ベースのトポロジー最適化とは別の手法となります。形状最適化とあるように、基本的には仮想的なモデル表面を動かすことにより構造最適化を行う手法で、トポロジー最適化のようにいきなり穴が開くことはありません。その後のバージョンで形状最適化の機能向上に伴い、レベルセット法形状最適化はその役割を終えたと判断し、非推奨機能としたのちにバージョン2020で提供を終了いたしました。
評価関数の数の比較
前回と同様に評価関数の数も比べてみたいと思います。
まずは形状最適化。バージョン 2004 時点での利用可能な評価関数が 7 個であるのに対して、バージョン 2014 時点での個数は 32 個。最新版のバージョン 2022r1 で利用可能な評価関数は 47 個となっていて、最新版には及ばないものの多くの関数が追加されていることが分かります。
詳細を見てみると、重心位置や慣性モーメントなどの形状を評価する関数、逸脱、欠損、重複体積などの製造制約を考慮する関数、主応力、主ひずみ、変位などの静弾性解析、新しく追加された周波数応答などの解析に関する関数などなど、バージョン 2004 からの 10 年では多彩な関数が追加されています。
一方でバージョン 2004 から最新版までの 10 年を見てみると、最小主応力や反力などの既存の解析に対して増えた関数、肉厚不足、肉厚超過、アンダーカットなどの製造制約に関する機能、等価両振り応力振幅や温度などの増えた解析に対する機能に対する関数、周波数応答の法線方向速度振幅などのユニークな関数などなど、こちらも多彩で魅力的な関数が増えています。
次に位相最適化、もしくはトポロジー最適化を比べると、バージョン 2004 からの 10 年間で増えたのは変位だけ、バージョン 2014 からの10年で増えたのは変位の大きさ、反力の 2 つだけとなっています。
トポロジー最適化に関しては評価関数以外のアップデートがメインとなっています。実際にバージョン 2004 からの 10 年で型抜き位相最適化が増えていますし、結果の有効利用のために TS Surface Generator というソフトも登場しました。TS Studio に追加されたトポロジー最適化の結果を形状最適化にシームレスに繋ぐための機能も TS Surface Generator と同様に結果のポスト処理の一機能と言えます。
おわりに
前回に引き続き今回は OPTISHAPE-TS 2014 をバージョン 2004 や最新版との比較という形で紹介しました。バージョン 2004 からは大幅に進化をとげ、最新版とは比較的見た目が近いソフトであるということが紹介できたかと思います。もちろん、見た目が近いと言っても改善点や追加した機能は多くあります。OPTISHAPE-TS をお持ちの方は、是非製品内の「新機能ガイド」を確認してみてください。
久しぶりにバージョン 2014 を触りましたが、今と近いソフトだけあって思ったより使えるという印象でした。とは言え機能面ではやはりあれはないこれがないの連続ですし、チュートリアル(応用編)も 11 章だけと物足りなさを感じます。
次回の内容については現在検討中ではありますが、「ソルバーの製造制約の進歩」「幻のソフトARE」「知っていると便利? マイナー機能紹介 その1」などなど候補はいくつかありますので楽しみにしていただけると幸いです。
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2024年4月23日
株式会社くいんと 技術開発部
OPTISHAPE-TS プロダクトリーダー
島田 誠
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