第10話 そしてチャレンジは続く...
次から次へと色々なことが思い出され、エンドレスになりそうです。
今回はいよいよ最終回です。
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OPTISHAPE を市場に出して5年が経った頃(1994年)、 計算速度の遅さが色々なところで問題になりました。
その要因は、多元連立一次方程式の求解、そして実固有値の求解です。 当時の最先端のソフトウェアは BCS(Boeing Computer Services)社の BCS-EXT というライブラリで、前者にはマルチフロント法、 後者にはブロック・ランチョス法が使われていました。
OPTISHAPE は
Irons教授のウェーブフロント法の改良版、Bathe教授のサブスペース反復法の改良版でしたが、マトリックスのリオーダリングにも問題を抱えていました。
この部分についても、BCS-EXT はミネソタ大学から出ていた Metis を使っていました。
大きなスピードの差に愕然としていた頃、別件で Palo Alto の三浦宏一博士を訪ねた時に、何となく雑談で Equation Solver の話をしました。 全くの偶然だったのですが、三浦博士と彼の学生時代の同僚の Vanderplaats博士の VMA社(Vanderplaats, Miura and Accociates)の主力製品、 構造最適化ソフトウェア:GENESIS にも同じ悩みがあり、 『多元連立一次方程式の求解、そして実固有値の求解について、その道のプロに開発を頼もうと計画しているが、資金が足りない。この際共同でやらないか?』 と逆に提案を受けました。
ここで、大まかな事項を話し合い、コンソーシアム(ASEコンソーシアムと命名)を立ち上げ、参加費は 1社 300万円、参加したメンバーは2年の開発期間終了時に、多元連立一次方程式の求解、そして実固有値の求解のソースコードを受け取ることができ、 自社のソフトウェアに組み込んで自由に改変・利用できるという条件を決めました。
帰国後、早速コンソーシアムのメンバーを集めるために、目ぼしいところへ説明に回り、4ヶ月で7社のメンバーと2,100万円の資金が集まりました。
アメリカでも、村木豊彦博士が事務局を担当し LSTC の参加を取り付け、合計8社(資金:2,400万円)で世界最高速レベルの Equation Solver開発コンソーシアムはスタートしました。
多元連立一次方程式の求解の開発は、第一人者の南カリフォルニア大学 Lucas教授に、実固有値の求解の開発は、ブロックランチョス法を考えた Simon博士に依頼しました。 Simon博士は HPC(High Performance Computing)組織の要職についていて時間を取るのが難しいとのことで、 Shakib博士(Hughes教授の弟子,ACUSIM社の創業者でFEMによる流体解析コード AcuSolveの開発者)が Simon博士の指導の下、プログラムを書きました。
開発は予定通り2年強で終了し、多元連立一次方程式の求解については、当時最も速いと言われた MSC/NASTRAN と20ケースの例で比較し、ほぼ互角。 ブロックランチョスによる実固有値の求解については、若干劣ったものの、これまで装備していたサブスペース反復法と比較すると3倍以上は速く、当初の目的は達成されました。
その後、このコンソーシアムでご一緒した三浦宏一博士(第1話で登場したSchmit教授の直弟子)から、
『友人の Engineous Software社の創業者で社長のTong博士から、彼の作った iSIGHT を日本でも売りたいと相談を受けている。
手伝っていただけませんか?』という依頼を受けました。
iSIGHT の内容を調べてみると、応答曲面法による最適化も多彩な機能を持ってはおりますが、むしろこのソフトは多物理現象を同じ土俵に上げて、
最も具合の良い組み合わせを求めるCAEのプラットホームに相応しいソフトウェアであると判断し、
CAEで構造解析、流体解析、熱解析、電磁場解析、等々様々な物理現象のソリューションを提供できる会社を探しました。
私が14年在籍した日本情報サービス社(現JSOL社)の友人D常務、CRC総合研究所社(現CTC社)の友人I常務にプレゼンを行い、
お二人とも(義理で)代理店を引き受けてくれました。
何故、自社で扱わなかったかと言えば、創業以来自社開発を基本としていたこと、そして iSIGHT を紹介いただく前に、三浦宏一博士が自分で開発した小規模な応答曲面法によるパラメータ最適化ソフトウェアを、共同開発形式で商品化する約束をしていたからでした。
このソフトウェアは共同開発を始めるにあたって、ベースとなるソースコードには AMDESS という名前が与えられていました。
AMDESS は、非線形性が強く感度の計算が難しい問題、 解析ソルバーの中に入れず計算結果(応答)しか入手できない場合等、感度解析を行う場合に比べて正確性は劣っても、何らかの最良な解を得たい場合にとても有効です。 計算結果を集めて応答曲面を近似し、その曲面の極値を探索し、それを次の応答に追加して、精度を改善してゆく便利なパラメータ最適化のソフトウェアです。
当初、応答曲面は2次多項式が基本で、複雑な曲面を模擬するためにKrigingも準備されていました。
途中から、香川大学の荒川雅生教授の協力も得て、多峰性を有する複雑な曲面を近似するために Gauss関数の重ね合わせで作る RBF(Radial Basis Function)が加わりました。
さらに最新バージョンでは、希求水準を使った多目的最適化も追加されます。
AMDESS は東レエンジニアリングDソリューションズ(株)様の
樹脂流動解析ソフトウェア:3D TIMON の最適化エンジンとしても使われております。
(ソフトウェア名:AMDESS for 3D TIMON 東レエンジニアリングDソリューションズ(株)様扱い)
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さて、緊急事態宣言が発令されてから突入したゴールデンウィーク(いや、ステイホーム週間でした。)から書き始めたお話も、 東京は相変わらずですが、その他の都市では緊急事態宣言が解除されるところも出てきていますので、そろそろ終わりにしたいと思います。
元々、これを書くモチベーションは、ステイホームで退屈している方々に、あまり面白くない話ではありますが、ちょっと覗いていただければと書き続けてきたものです。
過去に、MSC様と共同開発をした MSC/NASTRAN-OPTISHAPE のことや、SOLIDWORKS のアドインソフトウェアとして、
トポロジー最適化/形状最適化/算出された形状を SOLIDWORKS にCADデータとして戻す
HiramekiWorks などについても書きたい気持ちがありましたが、
ちょうど10話とキリの良いボリュームになりましたので、ここまでとさせていただきます。
長時間、お付き合い下さいまして誠に有難うございました。
2020.05.17 自宅にて.
石井 惠三
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