OPTISHAPE-TS発売20周年記念コラム:OPTISHAPE-TSの歩みと開発秘話

第1話 OPTISHAPE-TS の紹介

はじめに

2023年12月9日、構造最適設計ソフトウェア OPTISHAPE-TS は20周年を迎えることができました。 ひと昔前で言えば子供が成人に、今で言えばお酒を飲めるようになるまでの期間とでも言いましょうか、これほど長く製品として継続できたのはひとえにお客様のご愛顧の賜と考えております。 この場をお借りして改めて御礼申し上げます。

このたび20周年を迎えるにあたり、記念企画と致しまして OPTISHAPE-TS 20年の歴史を皆様と共に振り返る連載コラムを OPTISHAPE-TS プロダクトリーダーの島田がお届け致します。 第1回となる今回は、OPTISHAPE-TS 自体について改めて紹介をさせていただこうと思います。

OPTISHAPE-TSの紹介

構造最適設計とは

まずは OPTISHAPE-TS の標題にもなっている構造最適設計について。 構造最適設計もしくは構造最適化は、対象物の構造、形状を変えることで特定の性能要求を満たす最適化手法の一つです。

構造最適化のソフトウェアでは、例えば「既存部品の剛性と応力をなるべく保ちながら軽量化する」などの課題に対して、より適した構造、形状を検討するために使用することができます。 違う言い方をすると、通常の解析が形状の性能を確認するために使用されるのに対し、構造最適設計は性能要求を満たす形状を探求するためのソフトという言い方もできます。 馴染みのない方には少しとっつきにくいかもしれませんが、各機能の説明や動画を見ていただければある程度容易にイメージできるのではないかと思っております。

構造最適設計と一口に言っても複数の手法が存在します。トポロジー最適化、基底ベクトル法、寸法最適化、ノンパラメトリック形状最適化、グランドストラクチャ法・・・ トポロジー最適化だけ見ても均質化法、密度法、レベルセット法・・・と更に細分化することができます。

いずれの手法においても大きな流れは概ね同じで、解析(静弾性解析や固有振動解析など)を流す⇒結果を元に寸法や形状を変更する⇒解析を流す⇒・・・という繰り返しにより 最終的に最適な形状を求めます。要するに解析を何回も繰り返す必要があり、それだけの計算時間がかかります。 弊社をはじめ構造最適化の動画を見ると結果が一瞬で出るように勘違いされる方も居ますが、実際にはそうではありません。

OPTISHAPE-TS は各手法の中でも(密度法による)トポロジー最適化、ノンパラメトリック形状最適化、ビード最適化という3種類の最適化機能を有しています。 ここからは各機能について見ていきましょう。

トポロジー最適化

まずは「トポロジー最適化」です。 リリース当初から長らくの間は位相最適化という呼称を使用しておりましたが、中身はまったく同じです。 位相最適化よりもトポロジー最適化の呼称が一般的になったこと、位相(topology)と位相(phase)が 混同されることなどからトポロジー最適化に用語を変更しました。当たり前ですが英語表記は topology optimizaiton で変更はありません。

トポロジー最適化は与えられた問題に対して、設計領域のどこに材料を配置するのが良いかのアイデアを得るための手法です。 トポロジー最適化の中にも更にいくつかの手法がありますが、OPTISHAPE-TS では密度法によるトポロジー最適化を導入しています。

密度法によるトポロジー最適化は有限要素モデルの各節点に仮想的な密度を与え、その分布を変えることで対象物全体の構造を変える手法となっております。 最初はモデル全体の密度が均一な状態から始まり、最適化が進むにつれて徐々に部材が必要な場所は密度が濃く、不要な場所が密度が薄くなっていき 最終的に部材が必要な場所に濃い密度分布が集まります。 私は口頭での説明の際にスポンジの粗密をコントロールするイメージなどと表現したりしています。

他の手法と比べて穴が空くようなドラスティックな形状変更がおきやすいため、設計の初期段階に威力を発揮します。 反面、大きく形を変化させることが好ましくない既存部品の改良などでは、利用に適さない場合もあります。 また、難しい問題では濃淡がはっきりしない、いわゆる中間密度の領域が多く出てしまう問題もあります。

上記の動画はトポロジー最適化の簡単な例題の動画です。 動画冒頭の黄色が非設計領域、つまりは削ってはいけない領域。青が設計領域、削ってもいい領域となっています。 このモデルに対してトポロジー最適化を行うと、濃淡が徐々に変化していき、最終的に必要な部分の部材だけが残ります。 この動画ではポスト処理によりコンター図の色で濃淡を表現し、さらに密度が閾値以下の部分は削る処理を行っています。

ここだけの話、見た目のインパクトがあることからデモンストレーションの際に一番喜ばれるのはこの手法であり、 説明する側としては紹介する際に大変助かる機能だったりします。

ノンパラメトリック形状最適化

次に「ノンパラメトリック形状最適化」です。 パラメトリックな形状最適化、すなわち寸法最適化や基底ベクトル法による最適化と区別するために OPTISHAPE-TS ではノンパラメトリック形状最適化と 表記していますが、一般には単に形状最適化と呼ばれることもあります。 私自身も普段は「形状最適化」としか呼称していないので、以降本コラムでも単に形状最適化という表記を使用させていただきます。

この手法では有限要素モデルの各節点の位置が自由に動くことで、与えられた問題に対して最適となるように対象物の形状が変わっていきます。 節点が動くだけなので、トポロジー最適化とは異なり何も無いところに穴が開くことはありません。 これはダイナミックな形状変更が難しいという点ではデメリットであり、製造が難しい形状が出にくいという点ではメリットになります。

私は口頭での説明の際、粘土をこねるイメージなどと私は表現したりしています。 実際の粘土細工は穴を開けることも可能ですが、ものの表面がグニグニ動くイメージは近いのではと思っています。

上記の動画は形状最適化の簡単な例題の動画です。 モデル全体のうち、ボルト締結部などの必要箇所には形状拘束、すなわち動いてはいけないという設定をしています。 このモデルに対して形状最適化を行うと形状が徐々に変わっていきます。

率直に言えばお客様に一番利用されている機能であり、OPTISHAPE-TS の主力機能です。

ビード最適化

最後は「ビード最適化」です。 ビード最適化はビードのレイアウトを求めることに特化した最適化で、最適化のアルゴリズムはトポロジー最適化に近く、実際の動きは形状最適化に近い最適化となっています。

形状最適化と比較すると、形状最適化では各節点が自由に動くのに対して、ビード最適化ではシェル要素の法線方向のみに動き、移動量もあらかじめ指定する 必要があるという違いがあります。

上記の動画はビード最適化の簡単な例題の動画です。 動画冒頭の黄色の領域が非設計領域、つまりは動いてはいけない領域。青色の領域が設計領域、動いてもいい領域となっています。 このモデルに対してビード最適化を行うと、最適化の始めはビード高さが中間(緑色の領域)の状態からビードを高くするべき領域(赤色の領域)と 低くするべき領域(青色の領域)へと2つに分かれていき、最終的にはビード形状を得ることができます。

この最適化はビード形状を求めることに完全に特化した機能となりますので、要件と一致すれば非常に効果的な機能となっています。

トポロジー最適化と形状最適化

各最適化機能にはメリット、デメリットが存在し、場合によっては各最適化を組み合わせて使うことでそれぞれのメリットを活かしつつデメリットを補うような使い方もできます。 特にトポロジー最適化の後に形状最適化を行うという組み合わせは、当初より多くの方にお勧めしている組み合わせとなっております。

例えば、トポロジー最適化と形状最適化を組み合わせた例題としては以下のようなものがあります。


ユーザー事例3 社会インフラ点検ロボットの脚部設計

流れとしては、トポロジー最適化で大雑把な形状を求め、形状最適化で詳細を詰めるというものになります。 理屈はシンプルで言うのは簡単ですが、実際にやってみると泥臭い作業が非常に多く意外と苦労するのがこの手法です。 OPTISHAPE-TS をリリースした当初と比べるとこの組み合わせも大幅に進歩し、現在では状況次第ではありますが数クリックで手間なく実現可能になりました。 このあたりの歴史については、今後本コラムにて是非紹介したいと考えています。

リンク集

非常に簡単ではありますが私からの OPTISHAPE-TS の紹介はこのくらいにして、 あとは弊社ホームページ内の有益なリンクを紹介して、第1回のコラムは締めさせていただきたいと思います。

理論的な背景

技術コラム:OPTISHAPE-TSの理論

OPTISHAPE-TS ソルバー担当の林による OPTISHAPE-TS の理論解説になります。 お客様からの「どのような理論に基づいて最適化しているのか?」といったご質問に対する回答としてコラムを用意させていただきました。 バックグラウンドの理論をわかりやすい言葉で解説していますので、ご興味のある方は是非ご一読ください。

OPTISHAPE-TS の前日譚

Column 141.

OPTISHAPE-TS 20周年とは言いつつも、弊社の構造最適設計ソフトウェアは OPTISHAPE-TS がスタートではありません。 OPTISHAPE というソフトウェアが存在し、さらに MSC/NASTRAN-OPTISHAPE などいくつかの後続製品が存在していました。
くいんと製品の歴史

こうした歴史の話として、弊社会長石井のコラム「Column 141.」もありますので、ご一読いただければと思います。

事例など

OPTISHAPE-TS の細かい機能やどのように使われているかという事例については以下のページを参考にしてください。
事例:構造最適設計ソフトウェア OPTISHAPE-TS

しかしながらお客様の製品開発の最前線で使われることが多い性質上、お客様の数や歴史の割にはなかなかWEBで常時紹介しておける事例も少ないというのも実情です。

弊社のソフトウェアをどのようなお客様にご利用いただいているかについては、過去のくいんと交流会などのイベント講演者などから その一端を見ることもできますので、参考にしていただければ幸いです。
くいんと交流会:セミナー&イベント

OPTISHAPE-ES

教育用トポロジー最適化ソフトウェア OPTISHAPE-ES

構造最適化について知りたいという方向けに、OPTISHAPE-TS の体験セミナーなどもありますが、 もっとお手軽にソフトを試す方法として教育用トポロジー最適化ソフトウェア OPTISHAPE-ES という無償のソフトウェアがあります。 名前が1文字違いで紛らわしいですが、OPTISHAPE-TS とは全く別のソフトウェアです。 このソフトウェアは教育用と銘打たれているように制限が多く実務での利用には向きませんが、トポロジー最適化に触れて 直感的に理解するには最適なソフトウェアとなっております。初めての方だけでなく OPTISHAPE-TS の利用者の方にも是非一度は 使ってみていただきたいソフトウェアです。 無償で利用できるので、お気軽にお試しください。

おわりに

今回は初回と言うことで、OPTISHAPE-TS の機能について簡単に紹介させて頂きました。 次回は最初のバージョン OPTISHAPE-TS 2004 がどのようなソフトウェアだったか見ていこうと思います。

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2024年1月12日
株式会社くいんと 技術開発部
OPTISHAPE-TS プロダクトリーダー
島田 誠


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