Column 141. この半世紀における構造解析ソフトウェアの変遷と弊社のソフトウェア開発

第9話 他にはない機能で勝負 - 独自機能の誕生背景 -

導入の要望が多かった形状最適化機能ですが、既にMSC/NASTRANの中に、基底ベクトルの重み付き線形和で最適形状を求める機能(SOL200)があり、 創業時の「他と違うもので勝負する」という理念から、別の方法を探すことにしました。

形状最適化のユニークなアルゴリズムを探していた時、菊池先生からミシガン大学に外来研究員として滞在していた畔上秀幸助教授(現、名古屋大学教授)を紹介されました。 そこで先生が以前研究されていた「成長ひずみ法」について聞いたところ、それを拡張するための研究滞在であることを知りました。帰国後しばらくして以下の論文が出ました。

畔上秀幸 領域最適化問題の一解法,機論,60巻574号,A編 (1994), pp.1479-1486.

この論文は、2年後に機械学会論文賞を受賞します。その後も立て続けに「力法」に関連する論文発表が続き、この手法の有用性を確実なものにしました。 そこで、畔上先生に「力法による形状最適化手法」の商用化を打診したところ、幸運にもご快諾いただきました。

直ぐに共同開発契約を締結し OPTISHAPE に「力法によるノンパラメトリック形状最適化」機能を開発し、 それまでトポロジー最適化のみだった OPTISHAPE は競争力を増強したのです。

形状最適化問題 森北出版

その後畔上研究室で学位を取得したT君が入社し、彼が中心となってプログラムを全面的に書き換え、2003年に OPTISHAPE-TS として再スタートを切りました。
この力法による形状最適化理論はソフトウェアとしてではなく「手法」で特許を取得し、年々発展を続け、市場においては海外製の同じカテゴリーのソフトウェアと良い戦いをしています。 近年、「力法」という名前から「H1勾配法」になり、その理論背景を畔上秀幸教授が自ら詳細に解説した本『形状最適化問題』(森北出版) が出版されていますので、見つけたら是非目を通して欲しいと思います。

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ここまで、自社で開発を行って来た、アダプティブ有限要素法、 トポロジー最適化、形状最適化、算出された最適形状からCADデータの生成等のお話をして来ました。 1996年頃ですが、これらとは趣を異にする一風変わったソフトウェアの開発も出掛けました。きっかけは以下のような出来事です。

1994年頃、菊池先生のところにディアボーンにある自動車メーカーから、ピックアップトラックのトランスミッションケースの切削加工時に、 ミルがケースに当たった時異状が起こらないかどうかの解析依頼があったそうです。 下図のように非常に複雑な形状で、先ずどうやって解析モデルを作成するか、頭を抱えたそうです。


当時研究室には、菊池先生の下で生体力学を研究していた Hollister 博士(後に医学部整形外科の教授)がおり、動物をCT Scannerで撮像し、 画像処理で画面上に3次元モデルを構築し、それを基に骨粗鬆症の骨の強度などの研究をしていました。
しかし、動物とは違い相手は金属で、かなりの厚さがあります。 そこで、強いX線源を有する軍事利用のCT Scannerが民生化して使えることを知り、実際に9MeVという強いX線を照射し断層画像を撮像しました。 (上図:右端)
長手方向700mmのケースを1mm 間隔で撮像すると、700枚の画像が出来上がります。 断面の最大幅は約450mm位ですので、解像度を512×512とすると、一つの画素(Pixel)を1mm×1mmとすれば、長手方向の1mm を考慮し、1mm×1mm×1mmの立方体が一つの画素に相当します。 これをVoxel(Volume elementの略で造語)と称し、CT Scannerで撮像した画像を長手方向に重ね合わせ3次元画像を構築すると、VOXELモデルができあがります。

ユニークなのはここからです。 VOXELモデル生成はロバストで超高速ですから、[画像→VOXELモデル]をそのままHEXA8要素の有限要素モデルと考え、 境界条件、材料、荷重を与え状態方程式を解き、それぞれの変位や、応力分布を計算します。

当時は1千万円を超えるEWSでさえ256MB程度の実メモリの実装がやっとでした。 そこで、計算速度は遅くなっても、「解ける」ということを最優先に、多元連立一次方程式の求解にWingetとHughes(1983年)が考えた Element by element PCG という反復解法を適用しました。 この手法はFEMの要素重ね合わせの特徴を生かした解法で、全体剛性マトリックスを必要としません。 さらに生成されたVOXELは全部同じ形、大きさで、材料は1種類。従って要素剛性マトリックスは1つ準備すれば良いのです。

このような数々の特徴を生かし、当時のHP社のEWSで、300万要素程度のモデル(下図:左端)なら丸1日(今ではGPGPUを使うと10分程度)あれば、 答えを得ることができ、応力分布(下図:右端)も得られました。これでトラブルシューティングは上手くいったそうです。 これをきっかけに、この考えを商用化し、イメジベースモデリング/解析/計測を行うソフトウェア VOXELCON が誕生しました。


その後、現在に至るまで VOXELCON の様々な拡張に慶應義塾大学の高野直樹教授に多大なご協力をいただきました。

モデル生成の容易さ、速さを利用し、設計を決める前のいくつかのプロトタイプを同時に複数計算し、相対比較でどれか一つに絞る時などに利用すると便利です。

VOXELは小さいので、離れた2点間の距離や、穴の直径、重心位置、有効な体積、等々VOXEL単位のアバウトな計測も可能になります。 CT Scannerの画像から生成したVOXELモデルと、同じ対象のCADデータを重ね合わせて比較することもできます。

   

しかし良いことばかりではありません。唯一とも言える大きな欠点も潜んでいました。

それは、厳密性を求めると、出来上がったモデルの表面がギザギザしていることに寛容になれないのです。解析結果を見ても、そのギザギザ形状ゆえに応力は特異値が出ます。

この唯一ともいえる欠点を、鈴木克幸 東京大学教授、寺田賢二郎 東北大学教授が物理形状とは別に数学被覆という概念を加えた有限被覆法(Finite Cover Method)を提案し、 FEMで解いた滑らかな形状の解と遜色ない結果を得られるようになりました。

この手法も VOXELCON にインプリメント済みで、要求によって使い分けています。


第10話に続く...

自宅にて. 
石井 惠三 

*1:データ提供:ミシガン大学 教授 菊池 昇 様 (役職はご提供当時)
*2:データ提供:(株)富士通システムズイースト 様


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