Column 141. この半世紀における構造解析ソフトウェアの変遷と弊社のソフトウェア開発

第8話 大苦戦からの始まり ~ そしてそこから生まれた新たな技術

トポロジー最適化を行う上で基礎となる考え方、即ち設計領域を小さな穴が周期性をもって無数に配置された多孔質体と見做し、 この微小孔を持つ部分領域の等価な材料定数を計算する手法:均質化法について研究していたポルトガルからの留学生Guedesさん (現 リスボン工科大学教授) の書いた論文の草稿とプログラムを菊池先生からいただき、並行して商用化を試みました。 均質化法によるマルチスケール解析は PREMAT/POSTMAT という名前(菊池先生の命名)で1989年10月にリリースしました。

余談ですが、この均質化法という名前は、英語で ’The homogenization method’ と呼ばれますが、国内ではさほど馴染みがなかったようです。

1980年に菊地文雄先生が、航空機のゼータ板という面内に周期性を持ち、複雑に折れ曲がっている板の等価材料テンソルの計算法の論文を出されています。 また 故 瀬口靖幸先生は、機械学会誌に最近注目される手法として「均一法」という名前で紹介しています。

そこで、PREMAT/POSTMAT に「均質化法による複合材料解析のためのプリポストプロセッサ」というサブタイトルを付け、事あるごとに「均質化法」という言葉を使用しました。 これがどうやら定着した模様です。

   

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さて、自分で惚れ込んだ OPTISHAPE は、思いの外当初大苦戦を強いられました。

有力と思われる会社に電話を掛けまくり、直接訪ねて説明をしました。 最初は「凄いねー」とか「素晴らしい」という言葉をいただくのですが、 いざ商談になると必ず最後に「石井さん、こんな形状を出されたって作れないよ!」でThe End。

期待に胸を膨らませてスタートを切った OPTISHAPE ですが、毎回のようにこの決まり文句が飛んで来て、 これが10回以上も続くと、さすがにめげてきます。

ところが、「このソフトは設計にアイディアを与えてくれる現存する唯一のCAEソフトだよ。」といって元気づけてくれた方が数名おられました。

リリースを発表してから1年、ある自動車会社が最初に購入を決めて下さったのです。 これはもう崖淵まで追い詰められていた私にとって、英断して下さったSさんに御光が差しているのが見えました。 これをきっかけに少しずつ、ユーザーが増えて行きました。

別の自動車会社のIさんは、常に必要な機能項目をこちらに伝えて下さり、それにお応えするうちに機能が充実し、 社内でも多くの部門に利用を勧めて下さいました。

  01_initial.png  02_topology.png

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さて、「こんな形状作れないよ!」はその後もずっと課題として残りました。 先進的な会社には導入が進みましたが、一般の製造業には、 これを解決する可能性のある3Dプリンターが安価に入手可能になった極最近まで待たなければならなかったのです。

そしてもう一つ言われ続けた「算出した形状を何故CADデータに戻せないの?」については、 「一朝一夕には出来ないけれど、高度な技術とプログラミング能力を持つ曲面生成の専門家が挑戦すれば、出来るかも知れない。」という望みは持っておりました。

しかし、算出した形状をそのままCADに戻すことなど、設計では有り得ないのではないかという想いも強く、 自分自身の中に大きな葛藤がありました。

9年前の夏休みを直前に控えたある日、京都大学の西脇眞二教授からメールが届きました。 内容は、JSTでA-STEPという、企業と大学の協力による実用化を前提とした研究開発の企画があり、応募は企業からが条件なので、 京大で研究が進んでいる「レベルセット法によるトポロジー最適化の研究」で提案書を書いて応募して欲しいというものでした。

この時点で、応募期限まで猶予は2週間。そして来週は夏休み。 一瞬考え込みましたが、即座に決断し、夏休みの1週間でA4版20ページの提案書を作りました。 この時に、「実用化を前提とした」という部分にこだわり、採択率は5%程度ということも聞いていましたので、 万が一にも採択されることはないだろうと高を括り「算出された最適形状からCADデータを生成する」 という無謀とも思える開発項目を加えました。

口で言うほど簡単でないのは、過去の経験からも、他社のソフトに同様のものがないことでも明らかですが、夏休みを潰して書くのだから、夢も一緒にと。 そして、設計者の意図を反映させるために、対話型の編集機能を前面に出し、自動と言う言葉を封印しました。

結果がどうなったかというと、当時の民主党政権での「2位では駄目ですか?」という有名なフレーズで審査が半年遅れ、 期限を遥かに過ぎた頃に「採択」通知が届いたのです。(後で聞いたことですが、採択率は5%を大きく下回ったとのこと。)
最初は焦りましたが、神様がチャレンジをしろということだと理解し、スタートすることにしました。

開発期間の3年間は大変厳しい日々でありましたが、弊社の専門家が開発を続けた結果、当初の想定以上に素晴らしいソフトウェアが出来上がりました。 今では心底やって良かったと思っています。何よりも利用者の時間を大きく節約でき、役に立てそうなのが嬉しい。

このソフトウェアは商用化し、最初は OPTISHAPE-TS Surface Generator と命名されました。 そして、適用範囲を拡げるために S-Generator と改名し、少しずつですが市場に受け入れられています。

   

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さて、話を戻します。
OPTISHAPE は Springer 社から出版された Topology Optimization(Bendsoe and Sigmund著)という専門書(右図)の中で、世界で最初のトポロジー最適化の商用コードであることが紹介されています。


次回は、OPTISHAPE の適用範囲を大きく拡げた「ノンパラメトリック形状最適化」のお話です。

第9話に続く...

自宅にて. 
石井 惠三 


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