Column 141. この半世紀における構造解析ソフトウェアの変遷と弊社のソフトウェア開発

第6話 起業 - 夢へのチャレンジ -

さて、構造解析ソフトウェアの代表的なものを紹介してきましたが、私もこれらのソフトウェアから強い刺激を受け、巨大なソフトウェアの隙間で花を咲かせて見たいという気持ちが強くなりました。

折しも16ビットのPCが世に出回り、NECのPC-9801が国内市場でトップになった頃です。OSはデジタルリサーチ社のCPM/86に代わり、マイクロソフト社のMS-DOSが市場を握り、プログラム開発環境が整ってきた時期でありました。

常々思っていたことですが、大学には夢のある研究、実際に役に立ちそうな研究がたくさんあります。 欧米では著名なソフトウェアベンダーがそれらの宝を見つけ、大学と共同で商用ソフトウェアを開発し(または既にある汎用ソフトウェアにその機能を組み込み)、その有用性を市場に問うことが日常的に行われています。 しかし、我国ではこの手の取り組みはあまり成功していません。憶測ですが、日本ではこのようなリスクの大きい開発は、公的資金の援助を仰ぐことが多く、お金が潤沢に出る開発期間は当事者も一生懸命従事しますが、開発が終了した途端、自己資金でなおも開発を継続する会社が少ないように見えます。 継続したとしても、携わる人数は開発時の数分の一になってしまうことが多いようです。ソフトウェアを競争力のある商品に育てるには、開発に投入した1ケタ上のお金が掛かることを覚悟しなければなりません。CAEの代表的なソフトウェアはそうした永続的な投資を継続し、今でも発展を続けています。

ここで一つの決心をしました。 自分で準備できる資金(加えて趣旨に賛同して下さるパートナー様の資金)で、地道に大学の研究を発展させ、顧客がついたら彼等の意見に耳を傾け、少しずつでも成長させよう。 そして前述したメジャーなソフトウェアと同じ土俵では勝負にならないので、たとえニッチでも、彼らが扱っていない新しいテーマで勝負をしよう。 この決心を胸に1985年3月に会社をスタートしました。

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先ず最初に、今のようにインターネット環境もなく、SNSや電子メールもない時代に、無名の小さな会社をどうやって世間に認知してもらうかに頭を悩ませました。

菊池先生のアイディアで、「技術に特化したプライベートセミナーを毎年1回定期的に開催し、自分達の技術、思いの丈を直接訴えよう」ということになりました。

ソフトウェアベンダーが行うユーザー会とも、学会が主催する講演会とも違う、自社の宣伝をせず、あくまでテクノロジーを主体とし、先端技術を惜しげもなく話し、参加いただいた方に「CAEの世界の夢」を感じて帰っていただけるようなセミナーを目指しました。

当初は講師も菊池先生一人だけでしたが、回を重ねるうちに、外部の講師にもご協力いただきました。故 瀬口靖幸 大阪大学教授 や 故 野口裕久 慶應義塾大学教授、菊地文雄 東京大学教授、畔上秀幸 名古屋大学教授、ほか多くの著名な先生にご協力いただき、興味深い話題をご提供いただきました。
これが「くいんとセミナー」です。

1985年 有限要素法セミナー
菊池昇 教授     ※日本データゼネラル(株)と共催
1986年 有限要素法に欠かせないAdaptive法とGrid Generation
菊池昇 教授
1987年 Adaptive法とGrid Generation
菊池昇 教授、鳥垣俊和 氏
1988年 感度解析をベースとした形状最適設計とALEによる非線形構造解析
菊池昇 教授     ※日本情報サービス(株)と共催
1989年 複合材料と最適構造設計
菊池昇 教授、瀬口靖幸 教授、Alex R. Diaz 准教授、
Jose M. Guedes 氏、鈴木克幸 氏
1990年 構造物の最適設計と複合材料の計算力学
菊池昇 教授、Alex R. Diaz 准教授
1991年 有限要素法と設計 -原点に回帰して-
菊池昇 教授、鈴木克幸 博士
1992年 分散環境における構造物の設計と計算力学
菊池昇 教授
1993年 有限要素法の理論とその展開
菊池昇 教授
1994年 設計・製造のための計算力学
菊池昇 教授、Alex R. Diaz 准教授、弓削康平 助教授
1996年 メッシュレス -機械部品から生体へ-
菊池昇 教授、Scott J. Hollister 准教授
1997年 新しい解析手法の設計問題への応用とラピッドプロトタイプ
菊池昇 教授、Alex R. Diaz 教授
1998年 イメージベース法が拡げるCAD/CAEの世界
菊池昇 教授、Alex R. Diaz 教授
1999年 15回記念大会
菊池昇 教授、畔上秀幸 助教授、野口裕久 助教授、
鈴木克幸 助教授、寺田賢二郎 博士
2002年 実構造の断層画像をベースとしたディジタルエンジニアリング
菊池昇 教授、鈴木克幸 助教授、
岡田貴弘 氏(トヨタ自動車)、出海滋 博士 & 高木太郎 博士(日立製作所)
2004年 イメージベースエンジニアリングセミナー
菊池昇 教授、鈴木宏正 教授、鈴木克幸 助教授、三和田靖彦 氏(トヨタ自動車)
2005年 20年の軌跡と新しい未来
菊地文雄 教授、菊池昇 教授、畔上秀幸 教授、高野直樹 教授、
山田貴博 教授、寺田賢二郎 准教授
2009年 3代で振り返る[くいんとセミナー]25年の歩み
鈴木克幸 教授/金伝栄 博士、寺田賢二郎 准教授/松井和己 講師、
西脇眞二 教授/竹沢晃弘 助教、菊池昇 教授
2015年 30周年記念セミナー
菊池昇 教授、畔上秀幸 教授、平山紀夫 教授、西方恵理 様、石井惠三

※肩書は全て各開催当時.


小さな零細企業が思い切り背伸びをして、CAEの夢、苦悩を多くの方々に伝えたいという想いを込めた、自分自身のチャレンジの歴史でもあったと、今になって回顧することが出来ます。

このセミナーで話題になったテーマの数々は、その後世界に波紋が拡がり、海外で数々のソフトウェアが誕生しました。

Adaptive FEMでは、RASNA社からApplied Structure、Topology OptimizationではAltair Engineering社からOptiStruct、FE Design社からCAOSS(現TOSCA)、Multi Scale解析(Homogenization)ではe-Xstream Engineering社のDigimat、Image based CAEではVolume Graphics社のVG-Studio、Synopsys Technology社のSimpleware等が産まれています。

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次回は大学とのコラボによる一風変わったソフトウェア開発のお話です。

第7話に続く...

自宅にて. 
石井 惠三 


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